高所得者層・富裕層のターゲティングは「年収」から「位置情報」へ
「年収1,000万円以上の層に絞って広告を配信したい」・・・・・・高単価商材を扱うマーケティング担当者なら、誰もが一度は社内で口にしたことのあるリクエストではないでしょうか。
ところが、いざ媒体プランを組もうと主要プラットフォームの管理画面を眺めてみると、想像していたほど選択肢がないことに気づきます。さらに仕様を読み込むと、配信できる媒体でさえ「年収」の扱いには大きな構造的限界があります。
本記事では、まず日本国内で年収セグメントが可能な広告媒体を整理しつつ、代替策として注目されている位置情報広告の有効性と、セグメント例を紹介します。
1.高所得者層を「年収」でセグメントできる広告媒体は数えるほどしかない
最初に整理しておきたいのは、「日本国内で、管理画面から直接『年収(世帯収入)』を指定して配信できる広告媒体は、実はごく限られている」という事実です。2026年5月時点で、実務の選択肢として候補に挙がるのは主に以下の3媒体です。
1-1.Google広告|世帯収入ターゲティング
Google広告は、ユーザー属性のターゲティング項目として「世帯収入」を持ちます。区分は日本国内における世帯収入の「上位10%」「11〜20%」「21〜30%」「31〜40%」「41〜50%」「下位50%」、そして属性が判定できない「不明」の合計7区分です。
このターゲティングは検索・ディスプレイ・動画(YouTube)・デマンドジェネレーションなど主要キャンペーンタイプで利用可能で、富裕層向け商材のキャンペーンでは「上位10%」を起点に入札を調整する運用が一般的になっています。
出典:Google広告ヘルプ「年齢や性別によるターゲティングについて」
https://support.google.com/google-ads/answer/2580383?hl=ja
1-2.LINEヤフー広告 ディスプレイ広告(運用型)|世帯年収・個人年収・世帯資産
「LINEヤフー広告 ディスプレイ広告」(旧:Yahoo!ディスプレイ広告)は、属性・ライフイベントターゲティングのなかに「世帯年収」「個人年収」「世帯資産」の3軸を持ちます。
■世帯年収
「600万円以上800万円未満」「800万円以上1,000万円未満」「1,000万円以上1,500万円未満」「1,500万円以上」
■個人年収
「600万円以上800万円未満」「800万円以上1,000万円未満」「1,000万円以上」
■世帯資産
「1,000万円以上5,000万円未満」「5,000万円以上」
LINEヤフー広告は、Google広告の%ベース区分と異なり、絶対額ベースで指定できる点が大きな特徴です。「世帯年収1,000万円以上」のように具体的な金額で議論する場面が多いケースでは、Google広告の%区分よりも直感的に扱えるという声が運用者から聞かれます。
出典:LINEヤフー広告ヘルプ「オーディエンスリストとは」
https://ads-help.yahoo-net.jp/s/article/H000044833?language=ja
1-3.Microsoft広告|LinkedInプロフィール連携(会社名・業種・業種)
3つ目のMicrosoft広告は、厳密には「年収」を直接指定する項目ではありません。ただしLinkedInのプロフィールデータと連携し、「会社名」「業種」「業種」の3カテゴリでターゲティングできる点で、間接的に高所得者層へリーチする手段として実務上選ばれています。
特にBtoB高単価商材や、外資系金融・コンサルティング・テック企業の意思決定者層へリーチしたい場合、特定の会社名やエンジニアリング・財務・セールス等の業種カテゴリを直接指定できるMicrosoft広告は、Google・LINEヤフーでは届きにくい層への補完手段になります。一方で、日本国内のLinkedInユーザー数は限定的なため、掛け合わせを増やすと配信ボリュームが出にくいという制約もあります。
出典:Microsoft広告ヘルプ「LinkedIn プロフィール ターゲティング」
https://help.ads.microsoft.com/apex/index/22/ja/60032
1-4.「年収」を直接指定できない主要媒体
逆に、「年収」を直接指定できない主要プラットフォームも押さえておきましょう。Meta広告(Facebook/Instagram)、X広告、TikTok広告は、現時点で年収項目を持ちません。
これらの媒体では、興味関心(高級ブランド、海外旅行、高級車)、ライフイベント(住宅購入、転職、結婚記念日)、利用デバイス(最新の高価格モデルか否か)など、年収を間接的に推測させる代替シグナルで攻めるしかないのが実情です。
2.広告媒体の「年収」は「推定値」
「年収」でセグメントできる主要媒体であるGoogle広告とLINEヤフー広告において、年収は全て「推定値」です。
2-1.広告媒体は「実際の年収」を知らない

Google・LINEヤフー、ともにユーザーの銀行口座の残高や源泉徴収票を直接保有しているわけではありません。これらの媒体が推定の根拠にしているのは、たとえば以下のようなシグナルです。
- 居住地と推定されるエリアの平均所得(国勢調査ベース)
- 検索クエリの傾向(高額商品の比較検討、投資・資産運用、海外旅行など)
- 利用デバイスのモデル・価格帯
- アプリ利用履歴(金融・株式・高級ブランド系の利用頻度) など
これらを統計モデルに通し、「このユーザーは世帯収入上位10%の可能性が高い」というスコアを与える。これが推定の仕組みです。あくまで確率的なラベル付けであり、100%の精度は構造上ありえません。各プラットフォームの公式ヘルプにも「ターゲティング精度は100%ではない」と明記されています。
出典:Google広告ヘルプ「年齢や性別によるターゲティングについて」
https://support.google.com/google-ads/answer/2580383?hl=ja
2-2.「不明」セグメントが想像以上に大きい
Google広告では、年齢・性別・世帯収入の推定不能なユーザーが「不明」として分類されます。Google広告のレポートで「世帯収入」のディメンションを開いてみると、「不明」が想像以上の表示シェアを占めていることに驚く運用者は少なくありません。
つまり、「上位10%にだけ配信」と設定すると、本来狙いたい層の多くを含む「不明」を除外してしまい、リーチが激減するというパラドックスが発生します。これを回避するために「不明」を含めると、今度は本来狙いたくない層まで広がる・・・・・・どちらに振っても痛みが伴うのが現実です。
2-3.プライバシー規制が今後さらに精度を下げる
ここまで述べてきた推定モデルの精度は、現時点でも100%ではありませんが、今後さらに下がっていくと見るのが妥当です。ブラウザのCookieに対する仕様変更、IDFA/AAIDの利用制限、欧州を中心に強化されるプライバシー規制・・・・・・いずれも、プラットフォームが取得できる行動データの幅と深さを制約する方向に働きます。
つまり、「Googleの世帯収入ターゲティングを使えば富裕層に届く」という前提は、現在の精度水準ですら課題があるうえに、中長期では精度が劣化していく可能性があると、認識しておく必要があります。
3.位置情報広告で「行動」からターゲットを定義し直す
ここまで見てきたように、年収ターゲティングは「媒体が数えるほどしかない」「全て推定値」という課題があります。では、高所得者層へのリーチをあきらめるしかないのか。そうではありません。
「年収」からターゲティングする方法の代替策として注目されているのが、位置情報の統計的データを活用した広告配信プラットフォームです。これは、年収(属性)ではなく行動(どの場所に、どれくらいの頻度で訪れているか)からターゲットを定義し直すアプローチです。
3-1.なぜ位置情報なのか
高所得者層には、明確な「行動の偏り」があります。住んでいるエリア、立ち寄る店舗、利用する施設、移動の手段など、これらは、年収という推定指標よりも、はるかに具体的に「高所得者」を識別する手がかりになります。
たとえば、「都心の特定の高級ホテルに、過去3か月以内に2回以上訪問している」というデータは、Google広告の「世帯収入上位10%(推定)」というラベルよりも、富裕層シグナルとしての信頼性がはるかに高いと言えます。
つまり、「高所得者を狙う」のではなく、「高所得者が訪れる場所に行っているであろうユーザーを狙う」という発想転換が、年収ターゲティングの限界を超える鍵になります。
3-2.高所得者層が訪れる場所のリアリティ
高所得者層の行動には、以下のような特徴的なパターンがあります。
居住エリアとしては、都心の高級住宅街(広尾・松濤・白金台・田園調布など)、ハイクラスのタワーマンション(年収5,000万円以上の住民が多いとされる物件)、高級邸宅街のある郊外(成城・自由が丘・芦屋など)。立ち寄りスポットとしては、高級百貨店の外商フロア、外資系・国内ラグジュアリーホテル、会員制レストラン・クラブ、メンバーズ制ゴルフ場、輸入車ディーラー、プライベートクリニック、インターナショナルスクール周辺。移動手段としては、空港の上級ラウンジ(プライオリティパス対象外の上位ラウンジ)、新幹線のグリーン車車内、ハイヤー乗降エリア。
これらの場所への訪問データは、スマートフォンのGPS・Wi-Fi・ビーコンから取得でき、位置情報広告プラットフォームにて個人を特定できない形式で統計的なデータソースとして利用されています。
3-3.位置情報広告で実現できる3つの配信パターン

位置情報広告では、主に以下の3パターンでターゲティングできます。
1. リアルタイム配信
特定のエリアに「今いる」ユーザーへ広告を配信します。たとえば「銀座エリアにいま滞在中のユーザー」「六本木ヒルズ・東京ミッドタウンエリアにいる」などの設定で、その場のタイミングを捉えて訴求できます。
2. 居住地推定配信
夜間(おおむね22時〜翌朝7時)に滞在しているエリアから推定される居住地をもとに、「高級住宅街に住んでいる」ユーザーへ配信します。Google広告の世帯収入が国全体の所得分布から推定するのに対し、位置情報による居住地推定はそのユーザーが実際に夜を過ごしている場所を根拠にするため、シグナルの直接性が大きく異なります。
3. 来訪履歴ベース配信
過去の特定期間内に、指定したスポットへ訪問した履歴のあるユーザーを、後日、別の場所・タイミングで再ターゲティングします。たとえば「過去3か月以内に都内の高級ホテル群に来訪したユーザー」「過去半年以内に輸入車ディーラーを訪問したユーザー」といった抽出が可能です。
3つの中で、実務で最も成果を生みやすいのが「来訪履歴ベース」です。高所得者が訪れる場所に行っているであろうユーザーを狙うことができます。
4.シナラの位置情報を活用した広告配信の紹介
位置情報の統計的データを活用した広告配信プラットフォームのひとつである、「Real People(リアルピープル)」を紹介します。
4-1.高所得者層へアプローチできる「Real People」

「Real People」は、シナラシステムズジャパン株式会社が提供する、位置情報の統計的なデータを活用した独自のターゲティング配信ソリューションです。スマートフォンから取得した位置情報の統計的なデータをもとに、年収などの推定属性ではなく、ユーザーの推定行動データから「高所得者層へリーチできるセグメント」を多軸で組み立てられる点が特長です。
Real Peopleで利用できる主要なターゲティング軸は、大きく次の4つに整理できます。
■性年代
男女別・5歳刻みの年代区分で、基本的なデモグラフィックの絞り込みが可能です。
■エリア
居住地、平日活動エリア、駅・路線利用者、店舗半径指定といった「いる場所」「動く場所」を起点に、生活圏ベースでの絞り込みができます。高所得者が多く居住する高級住宅街や、ハイクラス向け施設の周辺を直接指定する使い方が中心になります。
■ペルソナ・趣味嗜好
WorldViewセグメント(後述)、店舗利用ユーザーなど、位置情報の蓄積から構築されたライフスタイル軸での絞り込みが可能です。「どのような場所に行く人なのか」という行動の累積から、価値観や購買意向に近い形でターゲットを定義できます。
■自社カスタム
自社来店者、同業検知者(競合店舗への来訪者)、非来店者、Webサイトリターゲティングな
「Real People」サービス紹介ページ
https://cinarra.co.jp/solution/ad-delivery/
4-2.位置情報を利用した消費者セグメント「WorldView」で高所得者層へアプローチ
Real Peopleの中核セグメントの一つが「WorldView(ワールドビュー)」です。WorldViewは、位置情報の統計的データをベースにしたジオ・デモグラフィック(地理的・人口統計学的)セグメントで、年齢・ライフステージ・収入・世帯人数・居住地の組み合わせから、人口をクラスタリングしたものです。
大分類は10グループ、中分類まで含めると45グループに細分化されており、約20か国の消費者調査と詳細な人口統計データをベースに、職業の種類、住宅タイプ、購買行動などを把握できる設計になっています。中分類では、世帯構成、婚姻状況、教育水準、住宅の所有形態(借家・持ち家など)まで踏み込んだ、より粒度の細かいインサイトが得られます。
【WorldView 大分類10セグメント】

A.都市型リッチ層:裕福な都市住民で将来性と忙しいライフスタイルを持つ層
B.高級住宅所有層:良質な住環境に住む、職業的に成功した家庭
C.向上心あるファミリー層:仕事と子育てのバランスをとる若い家族
D.裕福な高齢者層:十分な資産を持つ熟年世帯
E.中堅従業員層:中間的職種で平均的収入を得ている給与労働者
F.家計重視ファミリー層:限られた収入で子育てを行う若年家族
G.都市の低コスト住宅住民層:低コスト住宅で生活しながら懸命に働く都市住民
H.地元のシニア層:郊外や村落で質素に暮らす高齢者
I.都市労働者層:大都市で低賃金労働に従事する人々
J.地方コミュニティ層:サービスが限られた農村に暮らす世帯
高所得者層へのアプローチでは、A、B、Dあたりが中心セグメントになります。特に注目したいのは、年収だけでは捉えきれない「ライフスタイル」での切り出しが可能な点です。ターゲティングには年収も重要な軸ですが、商材によっては、ライフスタイルの方が狙いたい層をより的確に反映しているケースがあります。
ここでは、高所得者を多く含有するWorldViewセグメントの具体例を2つ紹介します。
■例1:高級住宅所有層(大分類B)
UU数:1,356,495
年収1,000万円以上の構成比:16%
定義:「郊外のハイグレードな邸宅に暮らす、キャリアを確立した高所得ファミリー」
大都市圏の郊外や環境の良い高級住宅街に、ゆとりある一戸建てを構える世帯です。年齢層は30代後半〜60代前半の既婚カップルが中心で、子どもは学童期から独立前後まで幅があります。各業界のエグゼクティブや管理職、専門職として成功を収め、経済的に非常に安定している層です。生活の質(QOL)と「本物志向」を重視し、自家用車を複数所有して遠方までアクティブに足を伸ばすライフスタイルが特徴です。
■例2:都会の持ち家成功者層(中分類)
UU数:1,195,597
年収1,000万円以上の構成比:13%
定義:「都市部の好立地にマイホームを構える、仕事もプライベートも充実した安定世帯」
大都市圏内の治安や利便性の良いエリアに、マンションや戸建てを所有する層です。中心は中年の共働き既婚カップルと子どもで構成され、可処分所得は全国平均より高く、サービス業系の専門職や管理職に多く就いています。タイパ(タイムパフォーマンス)重視でテクノロジー感度が高く、ライドシェアやオンラインショッピングを日常的に使いこなしながら、定期的な外食や旅行で都市生活を楽しむ層です。
このように、WorldViewでは「年収◯◯万円以上」という単一指標ではなく、「どのような住環境で、どのような働き方をして、どのような消費行動をしているか」というライフスタイル全体で高所得者層を切り出せます。商材の世界観に合うターゲット層を、より解像度高く設計できる点が、WorldViewの大きな強みです。
年収ターゲティングの推定値ベースの限界を、位置情報による「行動の事実」と、そこから構築されたライフスタイルセグメントで補完する。これが、Real PeopleとWorldViewを組み合わせた、高所得者層へのアプローチの全体像です。
5.高所得者層のターゲティングでよくある質問
5-1.位置情報広告「Real People」はプライバシー的に問題はないのですか?
データ取得は、必ずユーザー本人の同意(オプトイン)を得たアプリやサービスを経由して行われます。また、取得されるデータは個人を特定できないよう処理(統計的に集計・匿名化)されるため、プライバシー保護の法令やガイドラインを遵守した安全な仕組みとなっています。
5-2.年収ターゲティングと位置情報広告、どちらを優先すべきですか?
商材やKPIによりますが、高単価商材ほど、位置情報広告(特に来訪履歴ベース)の優先度が高くなります。これは、「年収というラベル」よりも「特定の高級ホテル・輸入車ディーラーに実際に行ったという行動」の方が、購買意向との相関が強いためです。一方で、認知拡大やリーチ獲得が目的のキャンペーンでは、年収ターゲティング媒体(Google・LINEヤフー)の方が配信ボリュームを確保しやすい場面もあります。両者を補完関係として設計するのが現実的です。
5-3.Real People(位置情報広告)とGoogle検索広告を併用する場合、どう役割を分けるべきですか?
典型的な役割分担としては、Google検索広告は検索意図のあるユーザーへの「刈り取り」、Real Peopleは特定エリア・特定施設に行動シグナルを持つユーザーへの「面の獲得」「指名検索の喚起」が中心になります。Real Peopleで「行動から定義した富裕層セグメント」にブランド接触を作り、Google検索広告(指名検索)で受け止めるという設計は、相互補完性が高い構造です。
6.まとめ
本記事では、高所得者層・富裕層をターゲティングする広告施策の現状と、その代替策・補完策としての位置情報広告について解説しました。
高所得者層のターゲティングは従来の「年収」セグメントに加え、「位置情報」の統計的データを活用したセグメントが効果的です。
「高所得者層に届けたいが、年収ターゲティングだけでは届ききらない」と感じている方は、属性ベースの推定から、行動ベースのセグメントへ。ターゲティングの軸を一度棚卸ししてみてください。
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