位置情報プロフェッショナル #3 「チラシの代替広告として使ってもらいたい」なぜそこまで言い切れるのか?
3人目のインタビューは、シナラシステムズジャパン株式会社 執行役員 営業部 部長 兼 ビジネス開発部 部長 松塚 展国。
松塚氏は、大学卒業後、博報堂に入社。営業として、大手企業のテレビCMなどを担当。その後Googleに転職し、Web広告の販売や、デジタルを使ったブランディングなどを担当します。2015年、位置情報の価値を見いだし、Cinarraにジョインしました。
「チラシが効かない?」Cinarraが解決します
通信キャリアの位置情報を活用した、モバイル広告配信プラットフォーム事業者であるCinarraは、9月に “モバイルちらし” をリリースし、これまでの “アナログチラシ” の代替広告として、注目を集めています。
2016年、電通が発表した「日本の広告費」によると、国内総広告費は、 前年比 101.9%の6兆 2,880 億円、5年連続でプラス成長をしています。インターネット広告費が初の1兆円超えとなりましたが、折込チラシの広告費については、新聞の部数減などの影響で、前年比 94.9%の 4,450 億円とマイナス傾向です。
インターネット広告費は、モバイル広告市場の成長や、新しいアドテクノロジーを活用した広告配信の浸透などにより、伸びています。このうち運用型広告費が7,383 億円と好調で、主な要因としては、データとテクノロジーを重要視する広告主が増え、データ連携可能な運用型への注目が高まったことや、高機能化によってブランディングなどの役割もカバーし始めたことなどが挙げらています。さらに、各ベンダーのジオターゲティング機能の強化により、位置情報だけでなく、過去の滞在情報を元にしたプランニング案件が増加しているそうです。
今回は、Cinarraの松塚 展国氏に、チラシの代替広告としての可能性や、Cinarraを利用している顧客のタイプや事例などを伺いました。
中小企業を応援するために、博報堂、Googleを経てCinarraへ
―― Cinarraに入社した理由を教えてください。
大学時代は、工学部でエンジニアリングを学び、自動車会社への就職を志望していました。しかし、在学中、モノづくりをしていた父の会社が、民事再生法の適用となってしまったことがきっかけで、メーカーへの就職ではなく、「モノを売るマーケティングのスペシャリストになりたい」と思うようになりました。
父の会社は良いプロダクトを作っていたのですが、それだけでは事業を続けることが難しく、ビジネスの転換をさせられなかったことが大きな原因だったのです。当時、「博報堂のストラジテックプランニング部がマーケティングに強い」と聞いていたので博報堂への入社を志望したところ、就職することができました。配属先は、もちろんストプラを希望しましたが、営業部に配属されることになりました。
それから5年ほど経ったとき、今後の人生目標として、「ゆくゆくは地元である山口県に戻って、中小企業支援をしていきたい」と考えるようになりました。当時、博報堂では、大手企業のテレビCMなどを担当していましたが、大企業への営業経験だけでは中小企業を支援していくことは難しいと思いました。中小企業のマーケティングを考えると、今後はもっとWebを活用していくはずなので、「次はWebを知る必要がある」と思い Google に転職しました。
Google 在職中は、 「どういう検索がどのくらい起こっているか」というデータを使ったWeb広告だけではなく、「デジタルを使ってブランディングにどう貢献するか」などのマーケティングもしていました。しかし、Web 上で、例えば “東京 ホテル” などのキーワードが、検索データとして現れている時点で 、すでにニーズが顕在化されています。本来広告は、“まだ東京に行きたいと思っていない潜在層” に適切に情報を届け、「東京に行きたい」と思わせるブランディングが必要です。
大部分の広告がブランディングに使われている中で、「ブランディング戦略の構築に寄与するデータは何か?」と考えると、「位置情報や、生活習慣などのデータなのではないか?」という結論にたどり着き、位置情報を扱うCinarraに魅力を感じました。さらに、「博報堂とGoogleを経験し、大企業でしか働いた経験がない自分は、中小企業経営者の心をつかめない」と考えことも大きなきっかけとなり、Cinarraへ転職することになりました。
今、Cinarraに入社して1年9ヶ月程度ですが、入社当時はまだ立上げフェーズで営業が僕一人だけだったので、自分のネットワークをフルに使い、キーマンに話をするために5分だけ時間をもらうなど、ひたすら営業活動に専念しました。おかげさまで、現在、Cinarraをご活用いただいたお客さまは150社ほどになりました。
Cinarraの顧客タイプと、活用事例
―― まず、Cinarraのウリを教えてください。
Cinarra最大のウリは2つあります。1つは、来店計測で、Web 広告やWebサイトに触れた人が来店したかどうかを、Wi-Fiで検知することできます。もう1つは、位置情報ターゲティングです。位置情報を活用した分析をして、例えば “カフェによく行っている人がコアターゲット” だと分かるのと同時に、そのコアターゲットにそのまま広告を配信することができることです。
広告配信単価はCPM240~500円で、1広告表示当たり0.25円~0.5円です。単価だけ見てしまうと、通常の Web 広告より高い場合もありますが、 “今ここにいる人” にターゲティングできることは、通常のWeb広告ではできないCinarraだけのプレミアムな価値です。だからといって通常のWeb広告を排除するわけではなく、Google や Yahoo! などの広告を併用しながら、それだけではリーチできない層に、Cinarraをご利用いただくのが理想です。
―― Cinarraのソリューションを、継続的に利用している顧客のタイプを教えてください。
継続的にご利用いただいているのは、“検討商材を店舗で販売している” お客さまです。検討商材とは、自動車や不動産、旅行など、すぐに購入を決めることが難しい高単価商材や、色々見比べて決めることが多いアパレル商品などです。
彼らは、「Web広告やWebサイトが、来店に寄与しているのか分からない」ことがこれまでの課題でした。しかし、Cinarraのソリューションをお使いいただいたことで、位置情報を使った広告出稿と来店計測ができるようになり、 Web プロモーションの貢献度が分かるようになったのです。このことは非常に好評で、継続してご利用いただいているポイントになっています。
さらに最近は、消費財メーカーや飲料メーカーのブランディング広告として、年に数回の大きなキャンペーンにご利用いただくケースも増えています。ブランディング広告の目的の多くは、「純粋想起を上げることと、店舗の棚を取ること」 で、キャンペーン内容としては、「広告を大量に投下し、特定の店舗で購入してもらう」というものです。
その中でCinarraの使われ方としては2パターンありますが、まず1つは、リアル行動ターゲティングです。エンドユーザーの生活習慣をベースに、例えば、“よくカフェに行ってる人” だけを狙い、純粋想起を刺激するピュアなブランディング広告です。もう1つは、営業支援を目的とした使われ方です。例えばトイレタリーなどの消費財メーカーが、あるスーパーの営業支援のためにCinarraを使って、スーパー周辺にいる人に広告を出して呼び込みます。
―― Cinarraのソリューションを、一度だけ利用して離れてしまった顧客のタイプを教えてください。
これも2パターンあります。1つは、 Web 上でビジネスが完結するネットショップで、もう1つは、 コンビニのように毎日気軽に行く店舗です。
Web 完結型ネットショップの離脱理由はすごくシンプルで、訪問や購入を重視したラストクリック数をKPIとして見ているからです。Cinarraは、リターゲティング広告などと違い、 位置情報を活用しエンドユーザーに適切なターゲティングをすることで、“きっかけづくり” を提供できる広告です。それをラストクリックの評価と比べてしまうと、なかなか単価が見合ってきません。
次に、コンビニなどの来店頻度が高い業態では、「コストパー来店を算出したけれど、数字の妥当性が分からなかった」という課題が残りました。Cinarraのソリューションを「面白い」と気に入ってくださって取り組んだ事例でしたが、この課題は、位置情報ターゲティング以前に「なぜデジタルマーケティングをするべきなのか」という、もう一段階前の問題だと感じています。
Cinarraのソリューションをご検討いただくステップとしては、「まずなぜデジタル施策が大事なのか、次になぜスマホ施策が大事なのか、そしてなぜ位置情報が大事なのか、最後になぜCinarraがいいのか」というように、お客さまのステージに合わせて順番を追ってお話させていただいています。今後は、課題が残ったお客さまと一緒にKPI を作っていきたいと考えています。
―― Cinarraの魅力が、まだ十分に伝わっていないと思う顧客タイプを教えてください。
KPIを明確にできていないお客さまです。例えば、チラシの費用対効果をほとんど把握していない中で、位置情報ターゲティング広告を実施し、明確なコストパー来店がわかると「思ったより高いな」と思われてしまうことがあります。チラシは本来、費用対効果を把握するのは難しいですが、クーポンなどを利用することである程度の費用感は把握できるはずです。そのようなある程度のベンチマークの数字を持った上で実施すると効果を評価できますが、ベンチマーク数字がない中で実施すると、良し悪しを判断できずに終わってしまいます。
まだCinarraの魅力を伝えきれていないお客様には、僕らのソリューションを使って、 Web 広告が来店に寄与しているということを一緒に証明していきたいと思っています。デジタルマーケティングに課題感を持っているデジタルマーケターと一緒に、価値の証明をしていきたいと思っています。
チラシの代替広告として使ってもらいたい
―― 9月に新しく始まったサービス「モバイルちらし」について、教えてください。
「モバイルちらし」は、位置情報を利用したスマホ広告です。これまでのサービスより、さらに簡便化したことで、店舗のオーナー様が「使いたいときにすぐに使える」ソリューションとなりました。
具体的には、例えば、「今、店舗周辺1 km以内 にいる主婦に、スーパーのスマホ広告をリアルタイムに出す」ことができます。さらに、「今は出勤中でスーパーの商圏にいないけれど、生活動線的にはその商圏にいる人に広告を出す」 など、過去の位置情報を使ってアプローチすることもできます。
あるスーパーでは「チラシのコストパー来店は、だいたいこのくらい」という数字が算出されていたので、Cinarraのソリューションと比較していただいたところ、 「Cinarraを活用したスマホ広告の方が安い」 という結果が出ました。これは、非常に良い結果となった事例の1つです。今後Cinarraは、チラシの代替広告として、多くのお客さまに使っていただきたいと考えています。
―― 営業活動の中で、今最もCinarraに期待されていると感じることを教えてください。
デジタル上の行動と、リアルの行動を繋げる架け橋として、期待されていると感じています。お客さまの期待に合わせて、プロダクト開発も強化しています。
最近では、来店計測の精度を求めるお客さまが増えてきました。Cinarraは、Wi-Fiで位置情報を特定しますが、来店計測という観点から見ると、GPSやBluetooth に比べ、非常に精度が高いのが特徴です。
GPSは、実は来店計測にはあまり使えません。衛星の三点測位を活用しているため、屋外にいる人の位置情報データは強いのですが、店舗に入ると精度は落ちてしまうからです。 Bluetooth の場合は、数mしか検知できず、エンドユーザーのBluetooth オン率が低いため、こちらもあまり向いていません。
Cinarraは、「来店計測の精度を制する会社が、位置情報を制す」 と思っているため、今後、Cinarra独自の Wi-Fiを開発し、 日本中に設置することも考えています。
とはいえ、Wi-Fi だけにこだわることはないと思っていますので、今後は GPS データも使っていきたいと思っています。通常、人が店舗に入った場合、GPSはその店舗の周辺でゆらぎます。しかし、Wi-Fiが使えるCinarraのソリューションにGPSデータが加わることによって、例えば、Wi-Fiで店舗に入ったことを確認し、GPSでのゆらぎを学習していくことができれば、「Wi-Fi がない店舗でも、 GPS でこういうゆらぎの挙動をしていると、精度は〇パーセントの確率である」という判定ができるかもしれません。
KPIの明確化が課題、最終的にはGoogleアナリティクスのO2O版へ
―― 位置情報を活用した案件の受注にあたって、現状の課題を教えてください。
「位置情報を使って、何を分析しようとしていて、どういう結果を求めるのか」、というプランニング時の KPIが明確化されていないことが、課題だと思っています。
現在、億単位で広告出稿をしているお客さまが、「ちょっと面白いからやってみよう」と、広告予算の数%をCinarraに回してくださるケースが多いのですが、目的が明確でないと「Webと比べると、位置情報ターゲティングの CPAが悪いね」という判断になってしまいます。Cinarraの広告は、Web広告と数字だけで比べられるものではないので、まずは 我々が位置情報ターゲティングのKPIを明確にして、さまざまなモデルケースを作らないといけないと感じています。
最近、お客さまはプライベート DMP を作りたがる傾向にあります。 自社の顧客データと外部のデータをマージし、 PCとスマホのクロスデバイスでの分析をご希望されますが、実はそんなにすぐにできるものではありません。
会員データと Web 上の行動を紐付けることは、それほど簡単ではありません。プライベート DMP を導入した後、ユーザーがPCとスマホの両方でWebサイトにログインをして初めて、会員データと紐付けることができます。物理的にはできますが、データマーケティングに活用する量を溜めようとすると、おそらく数年かかります。
また、Cinarraは、位置情報データを匿名加工情報として、個人を特定できないように最大限配慮しています。つまり、お客さまの DMP と一対一で情報をつなぐデータを提供しておりません。全てのデータをつなげることは非常に難しいため、今できる小さな PDCA を繰り返していくことが大事だと思っています。
―― 今後はどういう位置情報の活用方法が理想でしょうか。
Cinarraを、GoogleアナリティクスのO2O版として、デジタルマーケティングの基礎情報にご活用いただきたいと思っています。何らかのWebキャンペーンを実施し、結果を報告する際に、Googleアナリティクスのデータを正として報告書を作る企業が多いと思いますが、位置情報データにおいては、Cinarraのデータを正としてレポートにご利用いただくことが目標です。
そのために、広告接触から来店までを一気通貫で可視化できるソリューション“RealSight” を、10月から提供開始しています。「位置情報の活用方法がよく分からない」「 KPI が定まらない」などの課題は、どれもモノサシとなるソリューションがないからでした。今後、その課題を解決するのが、“RealSight”です。
「最近チラシの効果が薄れてきた」と課題を抱えている企業担当者の方は、ぜひCinarraのソリューションをチラシの代替広告として、ご検討いただければと思っています。