観光客の行動を把握し素早く「見える化」する! 長崎大学、ソフトバンク、シナラの共同研究による 観光周遊ビッグデータの収集・解析実験を開始

政府は2020年に訪日外国人旅行者数を4000万人に拡大することを目標としており、観光産業においては、国内外からの観光客の動向をできる限り早く把握し、観光客誘致のための効率的な情報発信、魅力的な観光商品や観光サービスの提供、自治体との連携による安全対策・防災対策に至るまで、さまざまな取り組みが不可欠です。しかし現状では、観光客がどこから来てどのように行動しているのか、どの観光スポットにどのくらい滞在しているのか、どの媒体から観光情報を得ているかなどを、自治体の観光部門など、広く観光業に関わる人々がリアルタイムに近い状態で把握することは困難です。

今回、国立大学法人長崎大学 ICT基盤センター・ナレッジプラットフォーム部門(“長崎大学ICT基盤センター”)は、ソフトバンク株式会社(“ソフトバンク”)、シナラシステムズジャパン株式会社(“シナラ”)と観光周遊ビッグデータの収集・解析の共同研究を行うことで合意しました。共同研究では両社が提供するサービスを活用し、利用者の同意を得て収集したログ情報の分析を行います。分析結果を各課題解決につなげるよう、以下の2事項について長崎県の協力を得て、県内の自治体および協力可能な施設を対象に、観光客の動向をより早く把握するための社会調査実験を平成30年4月25日より行います。

[実施事項1] 県内に設置されている「ソフトバンクのWi-Fiスポット」のアクセスポイントのログデータを利用して、観光客の移動や滞在状況に関するデータを収集・分析
[実施事項2] シナラのWebタグ※を活用した、観光事業者のホームページにアクセスしたユーザーの傾向を分析

[注]
※ シナラが発行するタグ。対象のホームページに設置することにより、アクセスした情報がシナラへ通知される

この実験で得られた結果は、長崎大学ICT基盤センターが開発し、長崎県の官民協働クラウドで運営している「観光活性化支援システム」での公開を予定しており、観光ビッグデータ分析に関するセミナーなどでの活用や、マーケティング能力に長けた観光人材育成に向けた取り組みでの活用が期待できます。

社会調査実験の背景

観光政策の立案や観光サービスの開発には、観光施設の利用者数、宿泊者数や宿泊施設の稼働率、交通手段の割合などのさまざまな分野でのデータが必要となり、国や自治体の観光統計データが活用されています。その一方で、宿泊に関する調査などは観光庁のほか、各自治体がそれぞれ独自に調査を行うなど、調査項目や調査手法、推計方法などが異なる多数のデータが存在し、それぞれのデータを単純に比較することができません。また、観光客へのアンケート調査も国、自治体で行われていますが、質問内容が曖昧なものや、質問項目が多すぎるなど、調査対象者に過度の負担を強いているものも散見され、実態を十分に把握できていないというのが現状です。

社会調査実験の目的

A.宿泊客および日帰り客が観光エリア内をどのように周遊しているかを把握する
B.特定エリアの観光に関するさまざまな状況を把握する
C.効果的な観光情報の手法や効果の検証を行う

上記A.からC.の各項目を確認するために、次の2点の仕組みを利用してデータを収集し、社会調査実験を行った分析結果を長崎県が提供する官民協働クラウドサービス(通称「長崎クラウド」)上の「観光活性化支援システム」で公開していく予定です。[全体概要は図1を参照]

「ソフトバンクWi-Fiスポット」のアクセスポイントのログデータを利用した移動分析(A.B.への対応)
Webタグを利用したホームページの訪問履歴分析(C.への対応)

図1:社会実験の概要と活用までの流れ

① Wi-Fiアクセスポイントのログデータ分析による周遊行動把握の仕組みについて

Wi-Fiアクセスポイントは、Wi-FiをONにしている端末と通信を行う事前準備として、端末とアクセスポイント間で互いを認識する信号データのやり取りを行っています。それらの情報はサーバー側に記録され、そのログは通信事業者(今回の場合はソフトバンク)に蓄積されます。ソフトバンクの携帯電話サービスの利用者情報とひも付ける(同意を得たユーザーのみが対象)ことによって、年代や市区町村レベルでの居住地などを明らかにすることができます。長崎大学は、ソフトバンクからその情報を統計化(十分な匿名化)したデータの提供を受け、分析を行います。[図2参照]なお、蓄積されたデータは個人情報を含みません。

長崎大学ICT基盤センターは、ソフトバンクのプラットフォーム上で独自の分析アルゴリズムのプログラムを実行することにより、匿名化された情報(k=1の場合)の第三者提供を受けることなく、分析が実施できます。

なお、このWi-Fiアクセスポイントのログデータ分析にあたっては、2014年7月に公開された総務省位置情報プライバシーレポートや2017年5月に全面施行された改正個人情報保護法などに従って運用します。

図2:Wi-Fiアクセスポイントのログデータとその仕組み

[注]

※総務省位置情報プライバシーレポートP.50 より「位置情報の基となるプローブリクエストおよび接続要求(Wi-Fi端末がアクセスポイントに接続するために送信する信号)」

② Webタグを利用したホームページアクセス履歴の把握について

ホームページにはアクセスした情報がログとして記録されています。その仕組みを応用し、あらかじめ各観光スポットのホームページにシナラが発行したWebタグを記述することで、利用者がアクセスした際に、シナラにアクセスした情報が送られます。その情報を①と同様の方法で個人情報を統計化(十分な匿名化)し分析することで、どのような属性を持ったユーザーがアクセスしているのかを測定することができます。[図3参照]

図3:Webタグを利用した訪問者分析の仕組み

以上の①②の仕組みを組み合わせることで、長崎県の観光客が、事前にどのホームページで情報収集を行い、訪問するまでの期間、訪問先の傾向(統計データ)をより早く把握することが可能となります。この分析で得られたデータは「観光活性化支援システム」で、観光客の行動が十分に把握できる形で公開する予定です。

今後の展望

これらの取り組みを通じて、長崎大学ICT基盤センターは、本学の学生や社会人を対象としたセミナーの開催など、観光活性化に必要不可欠なデータ分析のできる観光人材の育成を予定しています。また、「観光活性化支援システム」は地域依存性のないシステムのため、長崎県内だけでなく国内の他地域で利用し、データを収集分析することも可能です。


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