位置情報プロフェッショナル #1「Web上の行動データだけを追うのはもったいない」なぜいまジオターゲティングをやるべきなのか
2017年4月、経済産業省は2016年における日本の消費者向けEC市場規模を発表しました。その市場規模は前年比9.9%増の15兆1358億円。Amazonや楽天などが台頭する中、多くの企業においてもWeb展開を加速させるべく、Webマーケティングに取り組まれていることでしょう。
そして昨今はWebマーケティングツールも多く登場していますが、一方では現実世界での消費活動を位置情報をもとに分析し、適切な場所、タイミングで適切な属性のユーザーに広告を配信できる「ジオターゲティング」に注目が集まっています。
さらにジオターゲティングの活用は大規模チェーン店だけでなく、街の小さなラーメン屋さんから実店舗を持たない企業まで広がっているのです。
EC市場が拡大する中、なぜいまジオターゲティングをやるべきなのでしょうか。ジオターゲティングの特徴から将来の可能性まで、株式会社マイクロアドにてジオマーケティング事業を担当する中村匠氏にお話を伺いました。
「広告コミュニケーションが可能になった」ジオターゲティング市場の今昔
―― 御社ではジオターゲティングDSPを古くから展開されていますが、初期の頃のユーザーやクライアントの反応はいかがでしたか?
ユーザーからすれば、自分の位置情報を取られているというのはプライバシーに関わることなので、「コワい」という反応は多かったですね。またクライアントである広告主の方々からは、「位置情報をベースにした数値が見えるのは面白い」というお声をいただける一方、「位置情報を使ったところで、実際なにができるの?」と効果や使い方に疑問を呈する意見も多くいただきました。
そのため初期の頃はさまざまなフィードバックをもとにした、プロダクトの改善が急務でした。今はようやくプロダクトの改善やナレッジの蓄積などにより、ご要望にお応えできることが増えてきたと感じています。
―― ジオターゲティングはどのような企業だと効果的に活用できるのでしょうか?
いわゆるWeb完結型のサービスのようにダイレクトレスポンスを追い求める場合は、ジオターゲティングはオススメしません。位置情報は、いわば「現実世界のCookie」です。Web上に蓄積されたCookie情報からユーザー行動を分析して最適な広告配信やレコメンド表示ができるのと同様に、現実世界でのユーザー行動を分析します。そのため何かしらのエリア特性がある業態にジオターゲティングは有効的です。
つまり、実店舗を持ったクライアントに最も効果を実感していただけるでしょう。そして実店舗の商圏に合ったPRや折込チラシ・ポスティングの代替としても活用可能です。
さらに現在は配信した広告の集客効果、すなわち来店計測まで追えるようになりましたので、ジオターゲティングによる広告価値を計測できるようになりました。一方的な配信ではなく、ユーザーのアクションをもとに広告コミュニケーションが取れるようになったのです。
ジオターゲティングで大切なのは「今いる場所」と「過去にいた場所の履歴」
―― ジオターゲティングの技術が進歩した今、広告主はジオターゲティングをどう捉えればよいのでしょうか。
ジオターゲティング未経験の広告主は、「いま、ここにいる人に広告を配信したい」というリアルタイム配信をやりたがる傾向にあるのですが、ジオターゲティングで大事な考え方は、「今いる場所」と「過去にいた場所の履歴」の2つを活用することです。
行動履歴を見ると普段は東京にいるのに、リアルタイムでは福岡にいるというユーザーは、「出張や旅行で福岡にいるのだな」ということがわかりますよね。どこに住んでいるか、どこで働いているかといった情報を過去の行動履歴から把握することで、ユーザーの生活スタイルに合わせた広告配信が可能になるのです。
―― 実店舗を持たない企業にも、ジオターゲティングを活用するメリットはあるのでしょうか?
最近は実店舗を持たないクライアントも増えました。商品を卸している販売店で広告配信を行ったり、ブランディング広告としてお使いいただくなど、販促の1つとしてご利用いただいています。
将来的には位置情報データPOSデータ、クライアントが保有している会員データ等と紐付けることでリアルとWebを横断したより立体的なユーザー属性を割り出すこともできるようになるでしょう。
ただユーザー属性を割り出すキーは各ベンダーが保有しており、統一規格になっていません。今後規格が統一されれば、ユーザーの過去の行動履歴やユーザー属性を活用したキャンペーンはより増えていくでしょうし、実店舗を持たない広告主も増えていくと思われます。
Webとリアルの垣根のないプロモーションが求められている
―― 業種や業態によって、今後ジオターゲティングはどう活用されていくのでしょうか?
まずコマース業界においては、Webとリアルの垣根をとり払ったプロモーションが求められるでしょう。Webで何か商品を買う場合でも、実店舗で試してみるという“ショールーミング”はユーザーにとって最早当たり前の行動です。
そこで弊社でも各社とパートナーシップを組み、リアル・WEBを相互に繋ぎ合わせたオムニチャネルマーケティングを実現したいと考えています。
また東京オリンピックに向けて、観光客に対するジオターゲティングも注目を集めています。観光という行為は、旅前、旅中、旅後をに分けて考えられます。想像がつきやすいのは、旅をしている最中のユーザーに広告を配信すること。しかし、ユーザーの行動は旅前と旅後にも及びます。旅前には買い物リストをつくるでしょう。旅後には再訪問を検討したり、Webサイトにクチコミを書き込むかもしれません。来日した外国人に対して、「日本に来てくれてありがとう」と伝えるだけでは購買に結びつきづらいので、旅前や旅後にアプローチする手段としても、ジオターゲティングを活用するべきです。
そして現在はジオターゲティングDSPも、街のラーメン屋さんから大チェーン店まですべての企業が使えるようになっています。「今日はお客さんの入りが少ないから、近隣の人にクーポンを配ろう」といったことを低予算で実現できるのです。
ポケモンGOなどの位置情報を使ったアプリの普及により、ユーザーにとっても位置情報というものが身近になってきました。いまいる場所からの終電情報や渋滞情報など、マーケティング以外でも位置情報はユーザーの生活を支える存在になっていくでしょう。
―― 広告主視点で、競合に先駆けてジオターゲティングを実施するメリットは何かありますか?
「ナレッジが溜まる」というのが先行メリットとして挙げられます。業態にもよりますが、季節性を把握する上でも最低1年間はジオターゲティングを続け、データを蓄積することが重要です。
そして過去1年のデータをさかのぼり、来店率、クリック率などを分析し、次なるプロモーションに繋げていくというのは、ジオターゲティングを実施していない競合に対して一歩リードできるポイントになってくるでしょう。
また、現在ジオターゲティング広告を採用しているクライアントは、Webとリアルを融合させたプロモーションをすでに実施しています。どういった社内体制で、どういったツールを使い、どうプロモーションしていくか。正しい判断を下すために、ジオターゲティングのナレッジを早い段階で社内に蓄積していくべきです。
日本のEC化率は約5%。残り95%のリアル消費データを活用しないのはリスクでしかない
―― 最後に、今後の展望を教えてください。
現在ジオマーケティングには、主にGPSが活用されています。現状のGPS計測には20〜50mくらいの誤差があるのですが、近い将来に計測誤差30cmというレベルにまで上がっていきます。加えて高度に対する精度も改善されると言われているため、例えばばユーザーが商業施設にいるかどうかだけではなく、どのフロアにいるかも分かるようになると考えられます。
つまり同じ商業施設にいても、メンズフロアにいるユーザーには男性向けの広告、レディースフロアにいるユーザーには女性向けの広告、さらにはレディースフロアにいる男性のユーザーには女性向けギフトの広告を配信、といったことが可能になります。このようにジオターゲティングの技術が進化することで、マーケティング自体が変わっていくでしょう。
いま国内の消費活動におけるEC化率は約5%ほど。つまり残り95%はリアル店舗での消費です。これまで企業のWebマーケティングは、ユーザーのWeb上での行動を分析しプロモーション等を展開してきたかと思いますが、残りの95%のリアル消費に関するデータを使わないことはもったいないですし、リスクでしかありません。
位置情報はWebとリアルを結びつける重要なキーであり、ユーザーにとっても生活を便利に、より良くしていくものだと考えているので、しっかりとユーザーに寄り添って価値を提供できるようジオターゲティングを推進していきたいと思っています。